
服選びは“自分らしさ”を求める行為であると同時に、知らなかった自分に出会うきっかけにもなる。もし自分の思いがけない魅力を引き出してくれるブランドがあるとしたら、誰もが心惹かれるはず。そんなブランドがフェティコだ。
日本発のデザイナーズブランドとしては珍しく、ボディコンシャスなデザインが特徴的。立ち上げ当初から注目を集め、この秋には、毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞を受賞した。フェティコに一度袖を通すと「もう他には戻れない」というファンもいる。何が女性たちをそこまで魅了するのか。デザイナーの舟山瑛美へのインタビューで、フェティコの魅力に迫った。
高校卒業後に渡英、帰国後にエスモードジャポン東京校入学、2010年卒業。コレクションブランド等でデザイナーの経験を積み、2020年に「フェティコ」を立ち上げる。22年に「JFW ネクストブランドアワード2023」と 「東京ファッションアワード 2023」を受賞。
―受賞おめでとうございます。今のお気持ちは?
日本の名だたるデザイナーが受賞してきた権威ある賞に自分も認められたことは、とても光栄です。これまでノミネートされながら逃すことが続いたので、ようやく受賞できてほっとしたという気持ちもありますね。
真っ先に思い浮かんだのは、立ち上げ当初から支えてくれている工場の方や生地屋の方々の顔。良い報告ができて嬉しいなというのが率直な気持ちです。
―ブランドを始めたきっかけは?
小学校高学年の頃から「服に関わる仕事をしたい」と思っていて、中学2年で服飾の世界に進むと決めました。ただ、専門学校を卒業してすぐにブランドを立ち上げたわけではありません。まずは企業でデザイナーとして、多くの経験を積ませてもらいました。
そんななか、プライベートで自分自身のウェディングドレスをデザインする機会があったんです。デザイン画を描いて、最も信頼するパタンナーと工場にお願いして完成しました。「自分が良いと思えば良い」という感覚を頼りにものづくりをするのは久しぶりで、とても楽しくて。「ああ、やっぱり自分のブランドをやらなきゃ」と強く思いました。
―それが2020年のフェティコ立ち上げに繋がるわけですね。
最初はパタンナーと二人で、手探りのスタートでした。1シーズン目の発表後、ショールームから声がかかって。その後も、「一緒に広めたい」という人がどんどん増えていきました。
当時は、オーバーサイズのユニセックスなデザインがトレンドでしたが、私たちがつくりたかったのは「身体のフォルムを尊重した服」。最初から方向性は明確でした。
―フェティコのデザインや女性像に影響を与えたものは?
ロンドン留学中に見た荒木経惟さんの写真展がとにかく衝撃的で。18歳の多感な頃でしたし、圧倒的なクリエーションの力をまさに“浴びた”経験でした。ほかにもヴィヴィアン・ウエストウッドや、留学中に全盛期だったアレキサンダー・マックイーンからも大きな影響を受けています。
―フェティコはどんなブランドですか?
「背筋が伸びる服」でありたい。着ると自然と気持ちがシャキッとするような服です。
ボディコンシャスとよく言われますが、完璧な体型を前提としているわけではありません。隠すのではなく、その人の良いところをきれいに見せる。自分の好きなパーツがきれいに見えていると自ずと気分も上がりますよね。たたずまいにも自信が現れるんです。
―欧米と日本のボディコンシャスの違いは?
欧米は洋服の歴史やカルチャーが根付いていて、根本的に日本とは違う。だから同じ土俵で戦う必要はないと思っています。
フェティコには日本ならではの「かわいらしさ」も自然に入り込んでいて、クラシックで女性の造形美を強調するスタイルでありつつもコケティッシュな要素もある。ゆるふわな服をつくることは今後も絶対にないですが、かわいさを否定することもありません。
―前回2025-26年秋冬コレクションでは「身体の自己決定権」という社会的なメッセージも打ち出されていました。
立ち上げ時から掲げているコンセプトは「The Figure:Feminine (その姿、女性的)」。ここには「社会に足りない部分を改善したい」という思いを込めています。
日本ではいまだに「こう装うべき」「こんな服は着ないべき」という声が強く、女性本人も無意識に”あるべき論”に囚われていることが少なくありません。だからこそ、「自分のボディラインを見せる」という発想すらなかった人が、フェティコの服を着ることで自身の意外な魅力に気づく瞬間があるんです。
周囲の視線よりも、自分の心地よさを優先していいということを伝えていきたいですね。
社会への思いをストレートにテーマ化することはないですが、日々の違和感や小さな疑問に対する考えは発信していきたい。その積み重ねを通して、女性たちをエンパワーしていきたいと考えています。
舟山瑛美に聞く5つのクエスチョン
Q1. ミステリアスな印象の舟山さん。プライベートの過ごし方は?
家で料理や植物の世話をするのが好き。忙しくても、土鍋でご飯を炊いたりしてしまいます。料理中は他のことを考えずに没頭できるので、丁寧な生活をするが私にとって癒しです。
Q2. 仕事の哲学は?
関わる人を幸せにしたい。そして自分に嘘はつかないこと。独立してからは、布の大量廃棄など、自分が嫌だと思うことはやらないと決めています。
Q3. デザイナーとしての楽しさは?
どの瞬間も楽しいし、ときに辛い、というのが正直なところですが、でも一番に思い浮かぶのは自分の頭の中で想像していたものが形になって現れる過程。いつもワクワクしますね。展示会で試着室から出てきた方が「カワイイ!」とときめいているのを見るのも大きな喜びです。
Q4. 失敗談は?
たくさんあったと思いますが、寝たら忘れるタイプです(笑)。迷ったときは、「フェティコのファンからどう見えるか」を基準に考えます。
Q5. フェティコを着てみたい人へ
まず「隠す」よりも「どこを見せたいか」を考えるのがポイント。自分の好きなパーツを引き立てることから始めましょう!
たとえば私自身は典型的なウェーブ体型で、太ももはしっかりしているけれどウエストはあまり大きくならないタイプ。だからウエストを少し見せて、腰回りはフレアでカバーするときれいに見えます。
体型や年代によっても工夫はさまざまで、
- 凹凸が少ないボーイッシュな人→フィットした服をかっこよく着こなせる。
- マチュア世代→袖にボリュームのあるブラウスなど、服自体にメリハリがついているデザインが◎。鎖骨やデコルテ、うなじといった肌をのぞかせるとよい。
- 小顔対策→肩パット入りのジャケットを選ぶと全体のバランスが整う。
鎖骨、手首、肩、うなじ、背中…、人それぞれ「ここは好き」と思えるパーツが必ずあります。そこを隠さずに見せることで、自然と自信が生まれ、たたずまいも変化。自信をもつことこそが、自分を一番魅力的に見せる秘訣だと思います。
受賞を記念し、FETICOと資生堂とのコラボレーション広告が毎日新聞本紙特集紙面とMAINICHI Style Editionに掲載されました。「自分のために肌を美しく魅せる」という両者の共通点を、資生堂クリエイティブチームがビジュアルとことばで表現しました。
Photographer / KANAZAWA Masato
Copywriter / Minako Hanzawa
Art Director / Takaki Ikeda
Account Executive / Risa Yamaguchi
Hair & Make-up / Ikuko Shindo
Stylist / Rio Hashimoto (Freelance)
Model / Chen Zhi (BRAVO models)
呉佳子
資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。
オンラインサロンcreative SHOWER でナビゲーターを始めました!
まるでシャワーを浴びるかのように、美意識や感性に刺激を与える時間を重ねようというコンセプトです。ご興味のある方はぜひこちらをのぞいてみてください。
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