
銀座・和光 本店地階アーツアンドカルチャーにて、陶芸家・松永圭太氏と橋本知成氏による初の二人展が10月15日(水)まで開催されています。
二人の作家が向き合うのは、「かたちにならないもの」――。
“土”という根源的な素材を通して、目に見えない気配や記憶に、そっと輪郭を与えていきます。
岐阜県土岐市を拠点に創作活動を行う松永氏は、泥しょうを原料にした鋳込み成形によって、時間の痕跡を思わせるような造形を生み出しています。
泥しょうを、点滴のようにゆっくりと落とすことで、水分量の違いが自然なひび割れを生み、乾いていく過程そのものが唯一無二の表情となります。その土肌は、まるで木の年輪や地層のように、環境の変化や時間の流れを静かに記録しているかのようです。
土の記憶と人の営みがそっと刻まれた作品は、見る者の感覚に深く語りかけてきます。

一方、滋賀県信楽を拠点に創作活動を行う橋本氏は、ひも状の粘土を一つひとつ積み重ねて成形する手捻りの技法を用いています。
釉薬には複数の金属が含まれており、焼成の過程で酸化と還元が交錯することで、色彩は予測を超えて豊かに変化します。
屋外でレンガを作品ごとに積み上げて築いた窯による炭化焼成では、炎と煙が作品を包み込み、釉薬に偶然の揺らぎが生まれます。
さらに、陶とモルタルという異なる素材を組み合わせることで、偶然と意図、揺らぎと直線が響き合い、作品には静かな緊張感と余白が宿ります。

異なる技法とまなざしを持ちながらも、共通の素材を通じて響き合う二人の作品は、触れることのできないものに、静かに寄り添うような造形の対話を紡いでいます。時間の層や空間の余白を感じさせる、和光 アーツアンドカルチャーならではの特別な展示になっています。
ぜひこの機会に、“触れられないもの”に、そっと触れてみてください。
2nd images:
© Keita Matsunaga. Courtesy of the artist and Nonaka-Hill.
『The Shape of the Intangible 触れられないもののかたち』
期間:2025年10月2日(木)〜10月15日(水)
時間:11:00-19:00
会場:和光 本店地階 アーツアンドカルチャー
松永圭太
1986年生まれ。岐阜県土岐市を拠点に活動する陶芸家。2010年名城大学建築学科を卒業。2013年多治見市陶磁器意匠研究所を修了。2016年金沢卯辰山工芸工房を修了。泥漿(粘土を液状化させたもの)を型に流し込む鋳込み成形を用いる。泥漿は自然に粗い土や細かな土、石などに分離し、それをゆっくりと型に注ぐことで、地層のような土肌が立ちあがる。その層には、長い時間をかけて堆積した土と、そこで営まれる暮らしの記憶が根づいている。また、近年はNonaka Hill(アメリカ)で定期的に展覧会を開催するなど、活動の幅を広げている。
橋本知成
1990年生まれ。滋賀県信楽を拠点に活動する陶芸家。2012年京都教育大学教育学部美術領域専攻を卒業。2014年金沢美術工芸大学大学院工芸専攻陶磁コースを修了。2017年金沢美術工芸大学大学院博士後期課程工芸研究領域陶磁分野を修了。作品は、球体や多面体などのミニマルな形態を手捻りで成形し、金属を含んだ釉薬と炭化焼成によって独自の質感と色彩を獲得する。大型作品は空間そのものと呼応し、設置される場に新たな風景を生み出す。焼成条件や素材の不確定性により一つひとつ異なる表情を示し、複雑な色調が立ち現れる。近年は陶とモルタルを組み合わせ、歪みや割れと精緻な直線を対置させることで、新たな知覚領域を切り拓いている。幼少期の自然や造形への関心を背景に制作を続け、2019年LOEWE Craft Prizeファイナリストに選出。作品はV&AやLACMAなど世界の美術館に収蔵され、国際的にも評価されている。
