歯(Tooth is love)

詩/沖田めぐみ

2025.4.1

歯を磨くように音楽をしろ

なんて言われても 私は若くて

どういう意味なのか それはそれは悩んだ

歯の磨き方は人それぞれだから

歯を磨くように 一日三回

思い出したように音楽をするものもあれば

歯を磨くように 三日に一回

目いっぱい力を込めて音楽をするものもあった

 

あるものは

音楽の前に歯の磨き方を調べた

歯ブラシには親指、人差し指と中指を添え

力を込めず

奥歯のすき間まで丁寧に磨く

つまり音楽をする前に歯磨きを極めた

あるものの歯はとびきり美しくなった

あの歌手は歯がとびきり美しいと評判になり

ライブには大勢、人が押し寄せた

その歌声は それはそれは美しく

とてもこの世のものとは思えなかったそうな

 

なんてことがこの星のどこかで起きているかもしれない

なんて思いながら私は歯を磨く

決して美しくはない並びの歯の ひとつひとつを

いたわるように磨いてやる

やさしく やさしく

脳内でカート・コバーンがギターを弾く

激しく

嗅いだことのある匂いがする

たぶん歯ぐきから血が出ている

カートに合わせてジョン・レノンが歌をのせる

Tooth is love.

Teeth are peace.

ボブ・ディランが風にささやく

Tooth is love.

Teeth are peace.

(カートもボブもジョンも、ほんとうはろくに聞いたことはないの、)

 

私たちは

知らず知らずのうちに

何千何万回と歯を磨く

実はそのたびに

愛を磨いている

のだとしたら

そう思えたとしたら

世界は輝きであふれるだろう

美しい愛で歌をうたえば

それを聴くものは

心をつかまれて当然だろう

頭をグワシッと両手でつかまれて

目を背けることは許されない

そうだ これが たしかさなの

私の中に 血潮が巡っていることへの

 

あぁ

 

 もう 逃げられない

 

だから私は

今日も今日とて 歯を磨く

奥歯のすき間まで 忘れずに

世界中の愛を磨いている

つもり

選評/環ROY

 

私は1日2回、朝と夜に歯を磨く。力を入れすぎてもいけないし、かといって弱すぎても効果は薄い。適切な加減で、小刻みに歯の上を滑らせる必要がある。怠れば、磨けたという爽快感は得られない。だから、ある程度の集中が必要だと日頃から感じている。

逆に「音楽をするように歯を磨け」と言われたらどうだろう。ボーカル録音を頻繁に行う私は、歌もまた、力みすぎれば硬くなり、抜きすぎれば響かないことを知っている。その微妙な加減は、たしかに歯磨きと通じるものがある。

とはいえ、歯磨きは正直、ただただ面倒だ。毎日、生きている限り続く。できれば何か別のことをしながら済ませたくなる。私はYouTubeでラジオを聴きながら磨く。しかし、作者はきっと、妄想の時間として楽しんでいるのだろう。詩が飛躍していく様子に、その楽しさが垣間見える。

いい意味でとりとめのない筆致(ひっち)は、歯磨きから音楽、さらに愛へと軽やかに広がる。その展開に、単調な日常へ彩りを添えようとする前向きな力を感じた。そして同時に、私もこうなれたらいいのにと、羨ましく思った。