冴えない日のスケッチ

詩/富井嫉妬

2025.6.1

汗ばむ肌のベタベタ

身を捩りたくなる尿意

親父のキックの衝撃波

どこからともなく起床ラッパ

とにかく瞼を開けさせられた

雨も曇りも分からない淡い日ざし

ガタガタに進む壁掛け時計

ラップをかけられた皿に乗るパン

飲み残した昨日の麦茶

部屋のジメジメを凝縮した喉の痛み

瞼を閉じようにも頭が痛い

薬を飲もうにも麦茶はバイ菌

まだ眠気は生かしておきたいから

二度だけ、口をゆすぐ

鏡に写った下手くそな自画像

バランスのとれていない目ん玉

アメーバみたいな寝癖のうねり

産まれたてのニキビの色

なんかもう逆に全能感

低気圧に布団をひっぺがされて

30秒広告で命を継ぎ足す

疲れ知らずのヒーローは

毎日世界を救ってる

毎日僕を急かしてる

 

雨の降る日に名前をつけなくては

すべてに敬意を表します

冴えない日があるから

別の日には別の名前がつけられるものね

昨日があって今日があって

今はテーブルをなぞってグルグルしてる

気にすることはないのだけれど

気にして歩きまわる毎日で

たまーにいいモノ拾えたりする

それくらいがちょうどいい

選評/環ROY

 

 初読の印象は、音楽作品の歌詞に近いものだった。さらに言えば、韻律は緩いものの、どこかラップ的な感触もあった。

一見すると、雑に千切られた断片的な情景描写が連なっているように見える。だが実際には、意識や視点の移ろいに忠実で、明快な時系列に沿って展開している。また、比喩によって解釈の分岐を誘うというより、意味がストレートに伝わる直接的な言葉で、状況が簡潔にリポートされている。こうしたシンプルで率直な語り口に、歌詞的な親しみを感じた。

後半ではリズムがはっきりと変化し、フック(サビ)に差しかかった印象を受ける。前半のヴァース(平歌)を俯瞰するように視野が広がり、時間に対する解釈もかなり大局的になる。こうした構成自体からも、歌詞的な性質が感じられた。そしてここから、ライム(韻)を整え、ところどころを比喩に置き換えていけば、「冴えない日」という楽曲になりそうである。

そういえば、タイトルは「冴えない日のスケッチ」だった。なるほど、確かに。とてもとてもスケッチ的なのだ。そのスケッチさ加減に親近感や親密さを覚えた。