ウェストブリントン

詩/あいはて

2025.11.1

俺はいい格好をした。

 

アイロン仕立ての白いシャツ

染みたてのオイルジャケットを羽織る

無髯の若いデニムは

余計なことを考えさせない

 

俺は良い格好をしている。

 

スニーカーは潔白で

俺が進む道はオックスフォードになる

黒い犬がステップを踏んで

尾を空に真っ直ぐ向けても

優雅に太陽を仰げる

 

そう、良い格好をして。

 

俺のオックスフォードに邪魔が来た

そいつの胸倉に掴み掛かり

鼻頭めがけてブン殴る

倒した相手を唾とともに吐いてやった

「そこを退け、デコ助野郎!」

 

夢からはここで覚めた。

選評/環ROY

 

中学生の頃、国語の教科書で読んだ「おれはかまきり」という詩が、今も印象に残っている。

「なにこれ!?」と、子どもらしい衝撃を受けた。根拠のない自信に満ちた強い言葉に、痛快さとまっすぐなエネルギーを感じた一方で、あまりの無謀さに、どこか不安にも似た感情も抱いた。けれど今にして思えば、カマキリにとっての根拠は、生まれたことそのものにある。その一事で、すべてが足りていたのだ。

今回の詩「ウェストブリントン」は、その記憶の延長線上にあるように感じられた。真っ直ぐに歩くことが何より大切だ。そのために、服を整える。装いは見た目ではなく、歩くための根拠であり、武装でもある。いい格好をしていること。それが、前に進む力になる。

しかし、それはやはり夢だった。人間はカマキリのように超然とはいかない。根拠を求め、彷徨う生き物だ。たった一行で、虚しさと儚さに満ちた現実に引き戻す。そのニヒリズムが、強く印象に残った。