
占星術師・青石ひかりさんによる連載の第7回です。ほんの少し先の未来と、日々を美しく整えるためのことばたち―。見えないものを感じる時間が、今日の自分をやさしく照らしてくれるかもしれません。深い静けさの中で、蠍座は愛と絆の意味を問いかけます。終わりと始まりが交差する季節に、私たちは何を守り、何を手放すのでしょう。
深くて狂おしく、愛しい星座・蠍座
占い師の建前上「12星座はどれも大好き」と語ってきましたが、私も人間。若い頃はどうしても苦手な星座というのがありました。それは、ちょうど今頃の、夕暮れが早くなって寒さがひしひしと押し寄せてくる木枯らしの季節の生まれ…蠍座です。昼が一番長い夏至のあたりが大好きということもあるのですが、自由奔放・重荷を嫌う水瓶座の自分にとって、蠍座はつねに謎であり、ディープで神秘的で、少しオソロシイ星座でした。「そうよ私は、さそり座の女」(*1)と歌う美川憲一さん、実はご自身は牡牛座なのですが、歌にも書かれてしまうように、恋愛がらみで絶対妥協しないのが蠍座。愛情問題で蠍座を敵に回すと、かなりの割合で他の星座は負けます。「情」「絆」ひいては別れた後の「未練」「復縁」の引力が強いのが蠍座。蠍座にからめとられると、愛されたほうも従うしかないのでしょう。
蠍座を守護しているのは冥王星。死と再生の天体で、冥王星が発見される前は火星が担当していましたが、火星も簡単に諦めない星で、いずれも戦闘力が高いので、「強い」「弱い」で言ったら、圧倒的に強い星座です。生命感覚が強く、逆境に強く、自分のDNAを引き継ぐ者を命がけで庇護します。わが子を心配して占いを依頼してくださる親御さんも、蠍座であることが多い。血縁だけでなく、その人の才能や流儀を受け継いでくれる人も、蠍座は大切にする。一度この人と決めたら、裏切らないのも凄い。性別問わず、特に蠍座男性は、同性の友人のためなら命を落としても構わない…という、ウルトラ級の友情論を語ります。太宰治の『走れメロス』のメロスは、蠍座だったと私は思います。
毛嫌いしていたのに、思い出の糸をたぐれば、いつも自分を魅了し、追いかけてしまうのが蠍座でした。芯に熱いものをもっている彼らは、ふだんは飄々としてスタイリッシュで、「いざ」というときにだけ真剣な眼差しになります。その眼差しを向けられて「てへへへ…」と薄笑いする自分の馬鹿なこと。なんでそんなに照れないの? 恥ずかしくないの? こちらから蠍座を追いかける段になると、なぜかいつも去っていく。栄養がなくなった相手からは、さらりと離れていく蠍座です。腹の足しにならないものは、ビジネスライクに切って捨てるか。口惜しい。
私はこれまでの人生で結構たくさん恋をしたけれど、思い出に残る人はそう多くなく、その一人が蠍座でした。「あんなのが好きなの?」と友人に笑われても、自分にとっては滅茶滅茶セクシーで魅惑的だった。
長い長い夏の後、今年は秋真っ盛りのはずの天秤座の時期にはまだ熱気が路上に漂い、蠍座に入って急に本物の秋が訪れた感があります。ひんやりと空気が澄んで、合奏をしていた虫たちは死に、木枯らしが枯葉を運んでくる…蠍座は死の季節。死と再生の季節。年を重ねて、寂しさにも増して、蠍座の時期が愛の時間に思えます。昔の愛を思い出し、命が活き活きと燃えてくるような感覚に包まれ、紅葉する木々の色が湧きたつ血潮に見えてくる。「そうか、まだ生きたいんだな」とわが身を顧みてしまいます。年を重ねると、どの季節にも愛着が沸き、結果的には「嫌いな星座」はひとつもないんだなぁ…と思う占い師なのでした。
*1 出典:美川憲一『さそり座の女』(作詞:斉藤律子、作曲:中川博之、1972年、日本クラウン)
青石ひかり
西洋占星術研究家。1994年から女性誌・一般誌を中心に占い連載を執筆。天体の動きと地球で起こる事象との関連について日々考察している。ELLE Japan ONTOMO WEB等で月間占いを連載中。水瓶座。
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