地球の裏側は地球で
月の裏側はたぶん月で
波の裏側は風だ
駅の裏側は駅で
自販機の裏側にはアイドルが笑っていて
屋根の裏側には雨の染みができていた
テーブルの裏側はテーブルの裏で
茶碗の裏側は茶碗の底だった
靴下は裏返しても靴下で
黄色いセーターを裏返したら黄色い毛玉
がたくさんあった
正義の裏側は得意気な顔をしていて
愛情の裏側はサフランの匂いがした
憎しみの裏側はつるつるしていて
優しさの裏側はコップ一杯の牛乳だった
悲しみをめくったら同じくらいの悲しみがあった
さみしさを裏返したら透明だった
もう一度裏返したら透明だった
自分を裏返してみたけど裏側は見えなかった
仕方なくもとに戻した
そうだきみの裏側はどんなだろうと思って
まだ寝ているきみの丸まった右肩をぼくは
透明な中指で少しずつ押して
きみをころんと転がしてみる
選評/暁方ミセイ
なんてうまいんだろうと思わず唸ってしまいました。
「裏」をテーマに展開していくこの詩は、ダイナミックな第一連から始まります。月と波の間にある引力が、まるでその後の展開をも、手繰り寄せているよう。第二連、第三連と、身近なものにクローズアップしていき、第四連から転調します。一番の見せどころの、さみしさの裏側についての部分を読者の心に届けるために、この仕組みが効果的に働いています。
「裏」は、物理的な裏であると同時に、裏の顔、のことのようですが、その暴かれたものも、「つるつる」だったり、「牛乳」だったり、物質的に捉えることしかできません。わたしはここに、書き手の笠井さんの節度と、優しさを感じました。
さみしさを裏返すと透明があり、透明はもう二度とさみしさには戻れません。その思慮深い沈黙の指がころがしてみる「きみ」の裏側は、寝ているきみと同じでしょうか、それとも全くの思いがけないものでしょうか。
タイトルに歌とあるので、声に出して読んでみました。音だけではなく、イメージも次から次へとリズミカルに現れて、何度でも読みたくなる作品です。
November Poem
2024.11.1