
Interview:「輪郭や匂いをつくっていきたい」-TELMA、第二章のはじまり【前編】
文/ 呉 佳子(資生堂ファッションディレクター)
2026.11.6
毎日新聞社が主催する、毎日ファッション大賞。その中の、年間を通じて最も優れた創作活動をした新人デザイナーに送られる新人賞・資生堂奨励賞、今年の受賞者はデザイナーの中島輝道(なかじま・てるまさ)さんです。『花椿』がはじめてインタビューしたのは、中島さんが手掛けるブランド「TELMA(テルマ)」が誕生した翌年2022年のこと。それから4年の時を経て、日々刻々と変わる社会と向き合いながら、クリエイションや心境にどのような変化があったのでしょうか。資生堂ファッション・ディレクター、呉佳子によるインタビューをお届けします。
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海外のコレクションを取材していると、日本の意匠や技術が、外国人のデザイナーの手によって思いがけないほどモダンに見える瞬間がある。そのたびに、日本人デザイナー、それも日本の美意識や技術を深く理解しながら、そこへ外からの視点を重ね、現代のファッションとして翻訳できるデザイナーがもっといてもいいのに、ともどかしく感じていた。
まさにそんな感覚をもつデザイナーが現れた!と思ったのが、TELMAの作品を初めて見た時だ。TELMAを率いる中島輝道さんはアントワープ仕込みの感性を武器に、日本各地の産地で職人たちと素材から服をつくる。日本の技術をそのまま見せるのではなく、国際的な感覚で軽やかに編集する、そのバランス感覚に、TELMAならではの魅力がある。
今年1月にブランドはユナイテッドアローズの傘下に入り、ものづくりにより集中できる体制が整った。さらに毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞も受賞。ブランド立ち上げから早5年、中島さんが「TELMAの第二章」と呼ぶ現在地と、その先について話を聞いた。
―――まずは、新人賞受賞おめでとうございます!知らせを受けた時のお気持ちは?
率直に嬉しかったですね。同時に、「スタートラインに立たせていただいた」という実感も湧きました。日本のファッション産業の未来を真剣に考えている方々に選んでいただき、期待を寄せていただいたという意味では、より一層、産業や業界に貢献していかねば、と身が引き締まる思いです。
そもそも今回の賞は私個人がいただいたというより、TELMAを信じてくださるお客さまやスタッフ、生地づくりのパートナーである産地の職人さんなど、TELMAを支えて下さる皆さんへの賞だと捉えています。スタートラインに立った今、ここからどうドライブしていくか。サポート環境も整ってきたので、TELMAの価値を最大化するためにも、これまで以上にアグレッシブにいきたいです。
―――TELMA立ち上げ時と今とを比べて、変化はありますか?
ブランドを始めた当初は、ちょうどコロナ渦でした。社会全体に閉塞感や不安感が漂う中、何か新しいものを、新しいビジョンとして提示したいという気持ちが強かった。それから5年経った今は、「新しいもの」以上に「残るもの」をつくりたいと考えるようになりました。情報もものも次々と更新され、あらゆることが加速していく時代だからこそ、意味のあることや、自分が正しいと信じることをきちんとすくい取り、それを今の時代に合った新しい文脈で提示していきたいと思っています。
―――いまおっしゃった「正しいと信じていること」について、もう少し教えてください。
デザイナーの仕事は、「形のデザインではなく、価値の見方を変えることだ」とアントワープで学びました。つまり、まだ多くの人が気づいていない価値に光を当てる仕事なんです。私自身にとっての原体験のひとつが、マルタン・マルジェラの「カビドレス」。欠落や劣化さえも美しさに変わり得る、といった事実をまざまざと見せつけられて、自分の中の美の基準が大きく変わりました。そういう変化をもたらすことこそが、デザイナーの役割だと思っています。
一方で今、ファッションが置かれている状況を見ると、ファッションだけに特別強い関心をもつ人は、相対的に少なくなっているように感じます。多くの人にとって、ファッションはライフスタイルを構成する一つの要素に過ぎない。だからこそ、ファッション感度の高い人をも唸らせるクリエイションの純度を保ちながら、より多くの人に伝わる価値へと練り上げていく。そのバランスをどう取るかが、今ならではの難しさだと感じています。
―――今支持されているブランドについては、どう見ていますか?
今人気のあるブランドは、どこもコミュニケーションが上手だと感じます。新しいニーズを的確に捉えていて、発信する言葉も明確で解像度が高い。
でも、TELMAがやりたいことは、少し違う。私は「輪郭」や「匂い」をつくりたいと思っているんです。まだ言葉になっていない価値観を拾い上げていく。それが私たちのスタンスです。世の中はスピードアップする一方です。それが人々の求めた結果だということはわかっていますが、やはりどこか息苦しさも感じてしまう。そんな中、私が常々考えているのは、ファッションを「もの」として完結させるのではなく、「こと」としてとらえることです。
例えば、「ワンボタンのジャケットをつくりました」ではなくて、「フォーマルな装いの中にも少しリラックスした、愛嬌のある人が着る服」といった雰囲気やイメージが先にある。それをデザインという輪郭に起こしたものが服だと思うんです。そう考えると、加速していく世の中のスピードに、そのまま合わせることはなかなかできないんですよね。
―――コレクション製作はどのように始まるのですか?
散歩に出かけて、「今、自分はどんな気持ちなんだろう?トゲトゲしているのか、心地よいのか」と、自分の内側を観察するところから始めます。「夕日がきれいだな」とか、「街中で見かけた人が動いた時に生まれる、生地のはずみが素敵だな」とか。映画を見ていて目に留まった、ちょっとした服の揺らぎだったり、なぜか心に引っ掛かる違和感だったり。そういうまだ言葉になっていない美しいものを拾っていくんです。漠然としたイメージをいったん因数分解して、それをまた統合しながら形にしていく。その繰り返しの中で、コレクションができあがっていきます。
そうやってものを作る上で、僕が信じていることのひとつに、「あえて非効率なことをする」というのがあります。例えば、着物ジャケット。途中まで縫ったものに一度加工を施して、再び縫製工場に戻す。効率だけで考えれば、かなり無駄の多い工程です。でも、そのプロセスを経なければ生まれない価値がある。結局、TELMAがやりたいのは「豊かさ」をつくることなんだと思います。グローバルニッチでいい。たとえニッチであっても世界に通用するような価値観を提示できるブランドでありたいと思っています。
内観と自身の五感を研ぎ澄ませながらはじまる、中島さんのクリエイション。後編は、最新コレクションをとおして中島さんのものづくりの本質に迫ります。
中島 輝道 Terumasa Nakajima
TELMAデザイナー
アントワープ王立芸術アカデミー卒業。卒業コレクションが高く評価され、「Christine Mathys 賞」および「Louis 賞」を歴代、かつ日本人として初めてダブル受賞。同コレクションはアントワープ市内のセレクトショップLouis のウィンドーディスプレイを飾る。これを機に同年、DRIES VAN NOTEN に入社し、ドリス・ヴァン・ノッテンのアシスタントとしてウィメンズデザインを担当。その後、日本のものづくりを学ぶために帰国し、2014 年にISSEY MIYAKE へ入社。一枚の布という概念を軸に、独自のシルエット表現や国内産地との素材開発を学ぶ。2022 年より自身のブランド「TELMA」を発表。2026 年、第44 回毎日ファッション大賞 新人賞・資生堂奨励賞を受賞。
TELMA OFFICIAL
今回の新人賞・資生堂奨励賞受賞を記念し、TELMAと資生堂社はコラボレーション広告を制作しました。両者が信じる一人ひとりの人間性や生命力の美しさをテーマに、躍動感ある女性像を描きました。毎日新聞社が運営するウェブメディア、Mainichi Style Editionにて広告ヴィジュアルと制作の舞台裏をご紹介しています。ぜひ、ご覧ください。
新時代の美を探る|Mainichi Style Edition
Fashion / TELMA
Styling / Terumasa Nakajima (TELMA)
Model / LuShiseido Creative Team
Photographer / Masato Kanazawa
Art Director / Yumiko Yamamoto
Copywriter / Kanna Amano
Project Manager / Kazumi Yasumura
Hair / Joji Taniguchi
Makeup / Reiko Ito
BTS DP&Edit / Yusuke Hayakawa
コラボレーション広告制作のBehind the Sceneのようす